今日は色々な事がありすぎた。

ガタンゴトンガタンゴトン。

夏美は車で送ることを勧めてくれたが、なんとなく気分ではなかったので私は電車で帰ることにした。

一人になり、揺れる電車に乗ってようやく私は今日の出来事を整理した。

久しぶりに見たサッカーは・・・強烈だった。

鬼道さんのプレーのレベルの高さだとか、普段は怖いなんて思ったことのない佐久間や辺見たちの本気の迫力とか、

雷門のキャプテンが見せた信じられない気迫とか、なにもかもが凄かった。

・・・学校のみんなが、彼らを遠巻きに扱うのが、少しだけ分かった気がする。

サッカーの才能は、生まれ持った才能というモノも大きい。

プロの世界では、どんなに努力しても、才能がない奴は消えていく。

でも、磨かれない才能だけでは、やっていけない場所でもある。

鬼道さんに佐久間に源田や辺見、そしてあの雷門のキャプテン・・・誰もが努力を惜しんでいない。

じゃないとあんな技術、身に付かないし、あの諦めの悪さだってある程度自分のやって来た事に自信がないと出てこないだろう。

それに比べて私はこの一年、何をしていたかな。

私のやらなければならないことは、なんだったかな。

私は怪我が治ったらあのフィールドに帰るのだろうか。

・・・帰れるのだろうか。



いっそ、鬼道さんが私に優しくなければ良かったのに。

そんなひどいことを思いながら、それがただの八つ当たりであることを、私は自覚していた。




・・・今日は、本当に色々な事がありすぎた。

ガタンゴトンガタンゴトン。

そういえば、昨日あまり寝ていない事を思い出した。

ガタンゴトンガタンゴトン。

まだこれが立っていたのなら話は別だが、運良くこの環状線の混雑時に、私は座る事に成功して居た。

しかも一番端の壁側だ。

疲れた心身を、揺れる電車は心地よく眠りを誘う。

最初はうつらうつらしていただけだったが、いろんな意味で私は限界だった。

やがて眠気に勝てなかった私は壁にもたれかかり、意識を手放した。







「・・・・・・おい」



「・・・んん」



「・・・おい、



「・・・、ん?」



ふと揺さぶられる意識に目を覚ますと、目の前いっぱいに源田が居た。



「う、わあああああああああっ!!?」



「って、痛いぞ!!」



目を覚ました瞬間に、自分の顔の近い位置に他人の顔があったら普通に驚くわ!

しかも試合見た後とか言う出来ればまだ出会いたくない相手の一人に!

思い切り叩いてしまったけど謝らんからな!

寝起きで混乱する頭を落ち着ける事は咄嗟に出来ず、なぜここに源田が居るのか、なんで居やがるのか噛みまくる口で何とか告げた。



「・・・なんでって、普通に部活帰りなんだが」



「部活・・・え、じゃあ他の皆は」



「俺はちょっと寄るところがあったから、他の奴らはもう少し先の電車に乗って行ったはずだ」



ふと、窓の外を見るとまだ明るかったはずの空は完全に色を失い、黒に染めていた。

・・・一体、環状線を何周したらこんなことになるんだ。



こそ、女の子がこんな時間まで外に居たらダメだろ」



「いや、ちょっと実家に帰ってて・・・って源田は私のおかんか」



あれ、結構普通に話せる。

あんな試合見た後だから、もっと緊張するかと思っていたけど、案外平気だ。

今は制服を着ていて、ユニフォームを着ていないからだろうか。

源田があまりにもいつも通り過ぎるからだろうか。



「俺はお母さんじゃないぞ」



「いや、それは分かってるけどさ」



・・・ああ、そうか。

確かに源田は試合に出ていたけど、源田はGK。

必殺技を使っていたけど、それはボールを止めただけで、誰も傷つけていない。

だから、平気なんだ。

こうして寝てしまって偶然出会ってしまったのは源田だったけど、源田でよかった。

他の誰かだったら、ちゃんと対応できたか怪しい。

源田とこうして話していると、やはりいつもの日常は嘘ではないと確信できる。

大丈夫大丈夫、私の一年は、嘘じゃなかった。

明日までに、今までの私を必ず取り戻すから、そうしたら絶対大丈夫だから。



「・・・もう遅いし、家まで送る」



「え、いいよ。降りる駅も違うじゃん」



「もしこのまま帰らせて、何かあったら鬼道になんて言えばいいんだ」



「え、ええー・・・そこで鬼道さんを出してくる?」



「じゃないと一人で帰るだろ?」



「まあ、帰るけど」



「ほらな、じゃあ降りるぞ、ここだろ?」



「うわ、まじで!ってホントに源田も降りるの!?」



さっさと降りてしまった源田を追ってフォームに降りればあっさり扉は閉まり走って行ってしまった。

改札のほうに何事もなかったかのように歩いて行く源田。

・・・こいつ、本当に私を送る気だな!



「源田、ほんとにいいから!ちょっと待てばすぐ電車くるじゃん!」



「残念だが、改札を通った」



「仕事が早いよあんたはああああ!」



観念して私も改札を通り、送る気満々の源田の隣を歩き始めた。



「・・・本当にもの好きだよねー」



「女の子には優しいくしろってばっちゃんが言ってた」



「素敵なばっちゃんですね。佐久間も見習ってほしいわ」



「佐久間も根は良いやつだぞ」



「知ってる、後半分がペンギン愛でできてるのも知ってる」



だがしかし、それはいかがなものかと思う瞬間もあるわけです。

もし佐久間に彼女ができたとして、ペンギンと私どっちが好きなのって言われたら素でペンギン!って言い切りそうだもんなあいつ。

そんな事になったら間違いなく殴りに行くな、彼女かわいそすぎる。

・・・まあ、奴に彼女ができればの話ではあるが。



「・・・本当、皆良いやつすぎるよ」



ほぼ独り言のように呟いたそれは源田に聞こえていたらしく、源田は一瞬キョトンとした顔をしていたが、すぐに嬉しそうな笑顔に変わった。



サッカー部の事分かってくれて、嬉しいってさ。



・・・私、皆の事分かってなかったよ。

今日やっと、一番大きい新たな一面知っちゃったんだよ。

知っちゃったからには、もう知らない振りなんてできないから、ごまかしなんてもう効かない。

皆良いやつすぎるから、嫌いになんてならないけど、ああもう。



何があっても大好きって言えるくらい、私は確かにそう思っていたのに。



(今、心から言えないのは、時間が解決してくれるのだろうか)




*******


110130


源田がなんか知らんがすごく男前で困る。