色々あったがテストも終わり、部活が再開された。
テスト終了後、辺見のデコが曇っていたので、散々だったであろうその結果を想像し、何も聞いてやらない事にした。
私のテスト結果はいつも通り上位をキープしていて、それにホッと胸をなでおろした。
「、じゃあまた後でな」
「はい、頑張ってくださいね!」
「ああ、ありがとう」
放課後、いつも通りお互い教室を出ながら言葉を交わす。
歩きだした鬼道さんを見送ってから、私も反対の方向に歩みを進める。
もし私がサッカー部のマネージャーならばこのまま後をついて行くことができるのだろうけど、
いくら大好きな鬼道さんとはいえ、・・・いや、大好きな鬼道さんだからこそ、
大好きなサッカーを目の前で思いっきりプレイできる事を、妬ましく思いたくない。
初めは鬼道さんだけ、そう思っていたのにいつの間にか、サッカー部員全員と知り合いになってしまい、
そして私は彼らと同じ時間を供給しては、楽しい、と感じるのだ。
それでも、友達なのに、大好きなのに、皆が羨ましくてたまらない。
この足が治ったところで私は同じフィールドには立てない。
女子、だから。
でもこの足さえ治れば、この劣等感はなくなるのだろうか。
でも治療という名目があるからこそ、こちらで一人暮らしをさせてもらっている身だ。
完治してしまえばここに居る理由はなくなり、当然私は雷門に帰らなくてはならない。
・・・不思議な事に、帰りたい、と即答できなくなってしまった自分。
あんなにも離れがたかった夏美と約束したのに、足はここから動こうとはしない。
それでも、完治した後に夏美を振り切ってまで帝国に留まりたい理由をうまく説明できる自信はなかった。
・・・慣れとは怖い物である。
確実に怪我は回復に向かっているというのに、この時が永遠に続くのではないか、と思ってしまう。
でも今の私には、もう鬼道さんが居ない学校なんて、想像もできなかった。
「(私も随分毒されたなあ・・・)」
でもそれを、嫌だと思わないあたり、相当重症だ。
そんな自分を自嘲しつつも、毎日は変わらず楽しい。
テストが終わった解放感もあり、いつもより軽い足取りで私は部活へ向かう。
何もかもがうまく言っている気がする、そんな事を浅はかな私は鼻歌交じりに思っていた。
私は、鬼道さんにいっぱい嘘をついているのに、それすらも忘れてしまっているくらい、私は能天気になってしまっていた。
週末、久しぶりに帰ってきた実家で夏美とお茶を飲んでいる時だった。
いつもと変わらない日のはずだったのに、ある日突然にその日は訪れた。
「え、練習試合?」
前々から夏美が雷門中の経営をお父様に任されているのは知っていた。
一年の時は補佐の役割が強かったが、二年に進級してから、全面的に仕切るようになった事も知っていた。
むしろ、それについて相談される事もある。
・・・けれど、今回の内容は何かが違う。
弱小のはずの雷門サッカー部が、なんと帝国と練習試合をするというのだ。
確かに、鬼道さんたちはテスト開けに格下と練習試合があると言っていた。
だからきっと、本当の事なのだろう。
普通に考えて、雷門が負けることは火を見るよりも明らかだ。
それによってきっとサッカー部は廃部になってしまうのだろう。
夏美は私にサッカーをする事を望んでくれたから、帝国入学を許してくれたのではないのか。
それなのに、雷門に帰ってきたときサッカー部がないとか、夏見は、何を考えているのだろうか。
・・・まあ、本当にやろうと思えばどこででもサッカーは出来る。
それに今私は雷門に居ないのだから、相談に乗る事はあっても経営にどうこう言える立場じゃない。
まあ、いざとなれば、私が雷門に来た時に、自らの権力でそのサッカー部を復活させればいいだけだ。
だから今は、そこはたいした問題じゃない。
それよりも、相手が帝国というところに問題があるのだ。
帝国は負けた学校を容赦なく潰す。
いや、壊す、の方が正しいかもしれない。
私は結局、鬼道さんたちの応援には一度も行っていないし、サッカー中継も怪我をしたあの日から見ていない。
だから、校舎を破壊したり、試合風景を目の当たりにしたことはない。
しかし、メディアをシャットアウトしても風に乗ってくるサッカー部の噂は散々なものだ。
それを率いているのは他でもない、キャプテンの鬼道さん。
鬼道さんが、何の考えもなしにそんな事をしているとは思いたくない。
それでも万が一雷門中を破壊でもされてしまったら、私は今まで通りに居られるだろうか。
少なくとも、親の意向で帝国には居られないだろう。
というか雷門に帰れば、夏美みたいに、学生としてふらふらしている時間なんてなくなるかもしれない。
それになりより、大事なものを壊されてまで、鬼道さんを好きで居られるだろうか。
・・・いや、好き、だけど。
好きだけど、好きだということを伝える事は、はばかられるだろう。
きっともう、私の周りが近づけさせてなんかくれないだろう。
向こうだって、好んで近づかないだろう。
急速に深まった終焉の香りに麻痺して、心音が速くなるのを確かに感じた。
だって唯一の接点の「」は偽りで、私が私の名前を取り戻した時に、繋がりは跡形もなく消えてなくなるだろうから。
「大丈夫よ、。校舎は壊させはしないわ。私がちゃんと話をつけるから」
私は、大嘘つきだ。
そのしわ寄せが今になって、唐突にやってきた。
「・・・うん」
私が不安そうな顔をしていたのだろう。
優しい夏美は私が心配しないように優しく宥めてくれる。
私の自慢の双子のお姉さん。
ねえ、私達は双子だけど、双子が何もかもテレパシーみたいに通じ合っているなんて嘘だよね。
昔はそうなれば便利だな、なんて思うこともあったけど、今は絶対にそんなものあって欲しくない。
自分の親の、姉の、大事なものを心配するよりも、
自分を、今後の鬼道さんとの繋がりがなくなってしまうことを心配しているなんて、口が裂けてもいえない。
ああ、私は、なんて薄情なんだ。
(私は大切なたくさんの人達に、嘘しか吐いていない。)
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101120
とりあえず、突然第一期がはじまりました。