から連絡があって勉強会に行く事になった。
自業自得ではあるが、正直に言うと以前佐久間が行ったいたずらのせいでとの勉強会にあまりいい思い出はない。
しかし、教えてくれる人間が学年トップの鬼道と、常にトップテン以内に居るや佐久間だ。
そのうちの誰かに聞けば必ず明確な答えが返ってくるし、分からない事は一人で考えるより教えてもらった方が早い。
自力で何とかするのも大事なことなのだが、テストまで一週間を切った今、
のんびりと一つ一つの問題に取り掛かっている時間など残されていない。
暗記系は覚えるだけだから自力で何とかなる。
理数系の教科書をぎっしり詰め込んで待ち合わせのの家に足を進めた。
まずは、・・・そうだ、一日目の数学からだな。
自分の中で計画を立てながら、マンションの玄関に備え付けてあるインターホンを鳴らした。
ブツリと言う空気の切れる音が聞こえ、ああ、繋がったと思った瞬間、
『はい、です』
聞こえてきたのは、予想に反して鬼道の声で。
ガッシャン
パリーンッ
『な、どうした!』
『すすすすみません何でもないですー!!!』
『ああ、こら! 危ないだろう! 俺が拾うから、は箒とチリトリ持ってきてくれ!』
『は、はいっ!!』
皿の割れる音とともに酷く動揺し、上擦ったの声がインターホン越しに聞こえる。
音声だけしか聞こえてこないのだが、なぜか慌ただしく動く二人の様子がが鮮明に思い浮かぶ。
それにしてもの家のインターホンを鳴らして鬼道が出るなんて、思いもよらなかったな。
勝手知ったる他人の家、というやつだろうか。
いやでもあれだ、俺が佐久間の家で佐久間の代わりにインターホンに出るのとはわけが違う。
だって鬼道がって名乗るとか、財閥を継ぐ鬼道には実際ありえない事だが、遠い将来を夢見てしまうのはこの思春期当然の事で。
・・・間違いなく、今、の顔は真っ赤だな。
だって、ただ聞いてるだけなのに、こっちの方が恥ずかしい。
インターホン越しにざわつく二人の声を聞きながら、俺はどのタイミングでドアを開けてくれと頼むべきか、インターホン前で二の足を
踏んでいた。
「ごめんね、源田。・・・ちょっと、お皿割っちゃって」
・・・ああ、それは聞こえていたから知っている。
そう思った言葉を飲み込んでの家にお邪魔する。
「・・・いや、それより怪我はなかったか?」
「うん、私結局箒で掃いただけだし、大きい欠片は鬼道さんが片づけてくれたから」
まあ、そうだな。
インターホン越しにずっと聞こえていたから、聞かずとも怪我はしていない事は分かっていた。
結局、あの後押しかけた佐久間がもう一度インターホンを鳴らし部屋に入る事が出来た。
何度か来た事のあるの家だが、最近は部活が忙しかったし、来ていなかったな。
あ、あのクッション前来た時はなかったな。
新しく買ったのだろうか。
「おお、けっこう量あるな!」
「佐久間! 全員集まってからだって!」
「いいだろ、一個くらい減るわけじゃねーし」
「確実に減るよバカ!」
から揚げに伸びた佐久間の手をが叩き落とす。
まったくテスト週間という気がしないな、いつもの光景だ。
何となくゆるんだ緊張感のせいかやけにお腹がすいた気がする。
目の前で佐久間とがまだ言い合っている中、スッとサンドウィッチに手を伸ばした。
パシッ
「・・・源田、全員揃ってからだ」
「・・・そうだよな」
意外な位置から叩き落とされた手をさすりながら鬼道に視線を向ける。
鬼道に言われたら、待つしかない。
ふうっとため息を漏らす隣で佐久間が限界を迎えつつあった。
「大体デコの分際で来るのが遅いってどういうことだ!あいつ絶対デコピンくらわす!」
「はいはい、下の階に響かない程度にしといてね」
「くっそ、辺見ぃーーーーーー!!!!」
「だから転がるなよ!うるさいんだよそこの眼帯!!」
一人暮らしののマンションは一人暮らしにしては結構広い。
リビングにひかれたカーペットは毛が長く肌触りが良い。
その上を転がって行く佐久間はもう見るからにだだっ子であり、投げやりである。
なぜ進学校としても有名な帝国学園で常にトップテンに入っていられるのか、その姿を見ると本当に謎である。
もでクッション投げて応戦してるしな。
もう一度言い合いが始まりそうになった時、タイミングを読み過ぎたインターホンが響いた。
「・・・・で、なんでいきなり俺は連続でデコピンされる羽目になったんだ」
「・・・運がなかったからじゃないか」
ドアの前で待ち構えていた佐久間と便乗したからデコピンを喰らい、今もちょっとだけ額が赤い辺見は文句を言いながら差し入れを
に渡しに行った。
気をまわして差し入れを買いに行って遅れたのにそのせいでとばっちりを食らうとは何ともついていない。
それでも文句を言いながらでも本気で怒らないから辺見は偉いよな。
「じゃ、いつものメンバーが揃ったのでとりあえず食べよーか」
「よっしゃ飯!!」
「手を洗って来なさい!!」
「俺はもう洗ってきたから食べるぞ」
「はいどうぞ! いっぱい食べてくださいね!」
手を洗ってきたのだろう、ハンカチで手を拭きながら戻ってきた鬼道はの隣に座った。
それを見て佐久間も急いで手を洗いに席を立った。
それに続いて席を立ちながら、幸せそうに笑っているが視界に入る。
今更なんだが、何となくだが羨ましいなと感じてしまった。
それが何に対してなのかは、よく分からなかった。
「そういえば、テスト明けは練習試合でしたね」
食事を進める折、ふと思い出したかのように佐久間が鬼道さんに尋ねた。
試合の話などは普段はミーティングでするのだろうが、今はテスト週間なのでそれがないため、今確認したのだろう。
テスト週間中、調理部もサッカー部も例外なく部活は休みだ。
レギュラー陣は昼休みや空いた時間をうまく利用してそれでも毎日ボールに触るようにしているようだった。
私たち調理部は、普通に部活がない。
あっても料理するだけだし、少しの間しないからと言ってブランクが響くほどの手の込んだものは作らないから、一週間くらいどうって
ことない。
「ああ、相手は格下とはいえ気を抜くなよ」
「はい、分かってます」
帝国における格下ってどこだろうか。
とりあえず一番強いのだから、それ以外は全部下なのだろうが、格下と言い切られてしまうくらいだからそれほど強くないんだろう。
それって何の意味があるのだろう。
同じくらいのレベルだったら練習になるのだろうが・・・まあ、帝国と同じくらいの強さって言ったら本当に限られてくるのだが。
私が口を挟む事ではないので、何となく聞き流しながら鬼道さんが作ってくれたサンドウィッチを頬張る。
ああ、そう言えば鬼道さんが作ってくれるって本当に珍しいな。
多分普段の行いが良いから私に対するご褒美かな。
そんな事を思いながら黙々と食べ進めた。
なんとなく聞いていたこの話が、後に私に大きく関係してくる事を、私はまだ知らなかった。
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101114
さて、グダグダが収集つかなくなってきたので、このあたりで日常編を終わろうかと思います。