「最近暑いな、夏バテしないようにしっかり体調管理しないとな」



「そうだな、この時期は食欲もなくなりがちだしな」



まだまだ猛暑日の続く中、歩いているだけで流れ落ちる汗を首から下げていたタオルで拭う。

今日は他校の偵察に鬼道と二人で出かけていた。

普段俺はあまり偵察には行かないのだが、俺はゴールキーパーだ。

たまには対戦相手を自ら偵察する事も勉強になるだろうと、偵察役を買って出た。

とはいっても鬼道が一緒なので、俺は特にすることもなく、ただ相手のプレーを見てイメージトレーニングをするだけに終わってしまった。

全く同じものを見ているというのに、鬼道の見ている世界は別物のように相手の細かいプレーの癖や攻略法が浮き彫りになる。

俺だって真剣に見ているのに・・・あの観察力は、初めから授かった物の違いなんだろう。

だからこそ帝国のキャプテンが務まるし、だから俺たちも鬼道について行く。

置いて行かれないように個々が死に物狂いで練習に励む。

だから、帝国は強い。



隣を歩く鬼道を見れば、黙々と歩いているが、やはり暑いのか額に汗をかいている。

普段からサッカーで走り回っているものの、この暑い中で汗をかかないなど無理な話だ。

蝉は一週間の命だというが、あれだけ叫べばそりゃあ一週間で寿命も尽きるだろうと言うくらいけたたましく鳴いていた。

夏という季節はイベントごとも多いし、嫌いではないが、ここまで熱いと考えものだ。



「・・・佐久間が夏バテ気味だったな・・・鬼道は食欲落ちてないか?」



「ああ、俺は大丈夫だ。」



「そうか、さすが鬼道だな」



「・・・まあ、とはいっても、管理をしているのはだが」



しれっと飛び出した言葉に一瞬普通に返事を返しそうになったが、よくよく考えると、

いや、よく考えなくてもおかしい事に気が付いた。



「・・・え、か?」



に弁当を作って来て貰っているのは知っている。

放課後、部活の時間以外はいつ見ても大体一緒に居る事が多い二人。

しかしよく見かけるからと言ってもそれは校内の話であり、学校を離れた二人の行動を把握できるわけがない。

たまに一緒に出かけていたりするのは当人のから興奮冷めやらぬ感じに一方的に聞かされたりしていたのだが、

流石に部活帰りに分かれた後なんて、分かるはずがない。

大体一日の食事は三回あるわけで、しかも管理とまで言い切られては、一食分の面倒を見ているだけとは思えない。

・・・いやいや、いくらなんでも、それはないだろう。

いくらが鬼道に関して素晴らしい行動力の持ち主だからって、他所のお宅の食事を毎日作りに行くわけないよな。

は今は一人暮らしだが、鬼道宅には忙しく留守がちとはいえ父親が居るのだ。

本人がいくら言いと言っても普通は親が遠慮するだろう。

いくらが鬼道大好きでも保護者に断わられれば引くしかない。

そうだよな、そんな事あるわけ、



「今まで夜は外食や買ってきたもので済ますことが多かったが、

最近はが作り置いてくれてるんだ」



・・・やっぱりお前作りに行っていたのか!

なんということだ・・・まさかとは思ったがその通りであった。

・・・お前完全に通い妻じゃないか・・・!



「栄養も良く考えられている」



「へ、へぇ、そうなのか」



「ああ」



思わず乾いた返事しか出なかったが、鬼道は特に気にした様子もなく前を見据えている。

・・・この様子じゃ、これは昨日今日で始まったことではなさそうだ。

というか、はどこまで鬼道家に浸透しているんだ。

というか、なぜ鬼道の父親は何も言わないのだろうか。

それともが父親に気づかれないうちに料理して帰るんだろうか、いや、それこそ無理だろう。

大体気づかれずに帰ったとして、料理の出どころを絶対聞かれるだろうし。

え、容認されてるのか?

親公認で鬼道家の食卓を守ってるのか?



「・・・ちなみに朝は?」



が前日にフルーツを用意してくれているから、それとトーストと牛乳だな」



「・・・そうか」



「一日分の献立を作った方が栄養の管理がしやすいそうだ」



「・・・・・・そうか」



「ああ」



もう、なんと言ったらいいのかよく分からなくなり、俺は口をつぐんだ。

色々と、大丈夫なのかこいつら。

ちょっと本気で心配になってくる。

商店街を通り、十字路を曲がったところで、道沿いの花壇のレンガに腰を降ろしているを見つけた。

くるくると暇そうに日傘を回していたが、俺たちの姿に気が付くと、跳ねるように立ち上がった。



「あっ! 鬼道さん、偵察終わりましたか?」



鬼道を見て、嬉しそうに笑うを見て、俺はまた複雑な気分になった。

せめてもの救いは、今、鬼道の表情もどこか柔らかいということだろうか。



「ああ、じゃあ源田、俺たちは夕飯の買い物があるからここで」



そうか、買い物は二人で行くのか。



「ああ、分かった。・・・



「ん、源田、なに?」



「・・・・お前、本当に良く頑張ってるな」



「何のこと? 大体私はいつも頑張ってるよ」



「・・・そうだな」



これだけ鬼道に対して頑張れるもすごいが、こんなにも一直線に好意を受けて平然としている鬼道はいったい何なんだろうか。

もし俺に彼女が居て、しかも料理がうまくて、俺のために毎日弁当を作ってきてくれたら、

栄養のバランス云々言う前に俺はすごく嬉しいと思うのだが。

しかし夕食まで作るとは・・・鬼道の家にあまり親が居ない環境と、の行動力があるからこそなせる業なんだろうが。

それにしても、もっと鬼道は感謝をに伝えるべきではないのか。

二人並んで去っていく後姿が見えなくなるまで、俺はそこに立っていた。



もし、このまま鬼道がの想いに気付かず、他の誰かと結ばれるような事があれば、

俺は・・・・俺は、鬼道を許せないかもしれない。

あくまで他人事ではあるが、そう思ってしまうくらい、二人の姿を見てきたのだ。



「(・・・からしたら余計なお世話なんだろうけどな)」



二人が結ばれる事を、切に願う。

(誰のため、なんてものはすでに言い訳でしかない)


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100912


書いておいてなんだが、ここまで鈍感な鬼道さんは嫌だ。←