「あっつー・・・」



「言うなって、余計暑くなる」



「大体エアコン故障してるとか先に言えよ。だから佐久間って言われるんだよ」



「俺を代名詞みたいに言うなよ」



ぐたりともたれかかるテーブルも徐々にぬるくなってきた。

この湿度、この気温、激しく暑い。

何故こんな事になったかといえば、佐久間が勉強を教えろと言い出したからである。

別に佐久間は頭が悪い方じゃない。

でもサッカー部だし、佐久間は参謀とまで言われている。

周囲からも普通以上を求められるのだろう。

無意味そうな眼帯まで付けて、外見は少々悪ぶっているくせに、佐久間は意外に真面目な努力家である。

だからこうして一緒に勉強するのも珍しい事ではないのだが。

・・・もう、他の奴に頼めよ。

つーか私の家でよくないか、クーラー壊れてるなら。

しかし動く気力もないので(私の家は佐久間の家から離れている)その言葉が出ない。

チラッと視線を向けるとこの部屋の持ち主も、流石に今日の蒸し暑さは堪えるようでダラッとしている。

このタイミングで最高気温を更新してしまった猛暑。

きっと日が暮れたってそう涼しくなるものじゃないのだろう。

ため息を付きそうになったとき、佐久間の携帯が軽快に鳴り響いた。












「いやー、助かったよ源田」



「そうか?俺も助かってるぞ」



「やっぱエアコンは必需品だなー」



涼しい部屋で源田に出してもらったよく冷えたお茶を飲みながらゴロンと横になる。

うだるように暑い佐久間の部屋に掛かってきた、やけに爽やかな声に一瞬イラっとしたものの、

そういえば源田の家って近くないかという話になり、いそいそと源田の家に二人して移動したのだ。

そもそも源田の電話した理由も宿題が分からないという理由だったため、お互いに都合がよかった。

私は涼しくさえあれば、もうこの際どうでもよかったし。

・・・ああ、やっぱ涼しさは正義だな。



「こら、。行儀が悪いぞ」



「・・・えー、だってやっとあの暑さから解放されたのにー」



仰向けにゴロンとなり、視線だけを源田に向ける。

逆さまに見える源田は呆れたように苦笑している。



「だってじゃない。ほら、腹が冷えるぞ」



「冷えないよ!つーか暑いから!」



Tシャツの裾がめくれていたのか、源田が自分のベットからタオルケットを持ってきて私のお腹に掛ける。

いやいや、今までくそ暑かったって言ってたじゃんか。

暑くて死にそうって言ってたじゃんか。

いらないから、いらないってそのタオルケット。

源田にタオルケットを付き返している時に視界の端で佐久間が写メっていたので近くにあった筆箱を投げつけた。

別に、私悪い事してない。







こうしていても埒が明かないので、とにか、本題の宿題を終わらせるべく、私たちは机に付いた。



「で、佐久間は数学だったよね。源田は?」



「俺も数学だ」



「よし、じゃあさっさとやろうか」



、さっそくだがここが分からないんだが」



「・・・あー、そういえば分からないから電話してきたんだもね」



源田から示された所々空白のあるプリントを見る。

確か源田のクラスとは数学の担当が一緒だったが、クラスが違うため進度が違う。

数日前に全く同じプリントの宿題が出たため、得に考え込む事もなく教科書をめくる。



「・・・ここはこの公式を使うんだけど」



「・・・ややこしいな」



「この辺苦手?今のうちにしっかりやっとかないと、応用が出た時に困るよ?」



「ん・・・、頑張る」



「じゃあ、まずはここの値を単純に代入して・・・」



一通り説明し、源田がペンを進め出した時、佐久間の手が止まっている事に気づく。



「佐久間は、どんな調子?」



「・・・この辺りがちょっとな」



「んー、ああ、応用問題の方か。そこはねー、」



前にも言ったが佐久間は頭は悪くない。

必要最低限の少ない言葉でも、基礎がしっかりできているからすぐにこちらの言いたい意図を分かってくれる。

・・・って言うかこれ絶対宿題じゃないよな。

随分先の方まで予習するんだな、佐久間のくせに。

まあ、あとちょっとでテスト週間だし、その範囲まで終わらせる気なんだろうな。

因みに言うと、私は腐っても雷門と言う名字を背負っているし、

何より鬼道さんにみっともない格好を見せられないのでもちろん範囲内は終わらせている。

隣の席だから、点数丸わかりだしね。



二人との質問を何度かやり取りし、そして私は手持無沙汰になった。

源田も公式さえ覚えてしまえば特につまずくところはなさそうだし。

あー、でもここで雑誌を開くわけにはいかないし、私も勉強するか。

歴史の教科書を開き、朗読する。

つらつらと流れて行く字体と、急き立てる蝉の声。

別に本が嫌いなわけではないのだが、ただ字を追っていくという事が酷くだるい。

涼しい部屋には居るものの、先ほどまでの猛暑に体力を削られていたのか、一気に眠気が襲ってくる。

ああ、せめて源田が淹れてきてくれたのが麦茶でなくコーヒーだったのなら。

いや、どっちにしろ無理だ。

これは、眠い。

溶け込んでいく意識に、誰かが笑う声が聞こえた。










「・・・、・・・



「・・・んー・・・?」



うっすら目を開けると、なぜか目の前に鬼道さんが居た。



「えっ!? なんでですか!?」



一気に意識が覚醒し、がばっと上体を起こす。

間違いなく、今血圧が上がった。

寝起きにいきなり顔近いです鬼道さん・・・!



「ん、あれ、私寝ちゃったんですっけ・・・?」



よく見れば源田の部屋である。

なぜか佐久間と源田は居ないが、間違いなくここは源田の部屋である。

宿題を教えている途中に眠くなったんだっけ。

あれ、でも何でここに鬼道さんが?

寝起きの頭でぐるぐるハテナを飛ばしていると鬼道さんがため息をついた。



「・・・お前は、もう少し危機感を持ったらどうだ」



「・・・はい?」



「危機感を、持て」



「わわわっ、はい、わかりました!」



眉間をぎゅーっと押してくる鬼道さんに、理由分からないがここは空気を呼んでイエスマンになる。

それに満足したのか、鬼道さんは手を離した。

窓から差し込んでくる日差しは夕暮れを示しているが、依然として暑そうである。

そろそろお暇する時間なのだろうが、この中を帰るのかと思うとうんざりしてしまう。



「そういえば、佐久間と源田はどうしたんですか」



「・・・ああ、あの二人なら、急に走り込みがしたくなったらしく、外に出て行ったぞ」



「え、この暑い中をですか!もの好きですね」



「・・・そうだな」



「うーん、でもそろそろ帰らないと夕飯に間に合わないんですよね」



「なら、送って行こう。二人には先に帰っておくと俺が言っておく」



「わあ、ありがとうございます!流石鬼道さんですね!」



さっさと荷物をまとめて鬼道さんの後をついて行く。

ちらりと見た源田の宿題は終わっていたから、まあいいだろう。

大体佐久間が居るんだから、私が抜けても後は大丈夫だろうし。

・・・・それにしても、よくこんな暑い中走ろうって気になるよなあ。

やっぱり生粋のサッカー好きは違うんだろうな。

鬼道さんに車で送ってもらう途中、私はそんな事を考えていた。









「・・・帰ったか」



「・・・そうだな」



鬼道とが帰って行き、俺たちはほっと胸をなでおろし、いそいそとリビングから源田の部屋へ戻って行った。

今日は俺たちの勉強は随分はかどったが、その途中でが寝てしまった。

そして、勉強が一段落したところで、佐久間がいたずらで撮った写メを鬼道に送った。

あのタオルケットをに掛けるか掛けないかで揉めていた時のやつだ。

別にあれは俺の親切心だ。

だって女の子はお腹を冷やしたらいけないんだろう?

前にばっちゃんが言っていた。

まあなんだ、ただじゃれているだけの光景だったが、見ようによってはそれ以上に見えないこともない。

佐久間、本当はただのバカじゃないんだろうか、そんなもの鬼道に送りつけたらどうなるかくらいわかっているだろうが。

それから数分もしないうちに駆け付けた鬼道がものすごいオーラを発していて、

説明するのにものすごい時間がかかったが(日が暮れてしまった・・・)

相変わらずご機嫌斜めで、俺たちは町内十周を言い渡された。

後が怖いので素直に従った。

あの間目を覚まさなかったはある意味兵であった。

・・・、どうにか帰宅するまでに鬼道の機嫌を取ってくれ。

・・・ああ、もう、明日学校に行きたくないな・・・




*******



100704



さんは鬼道さんのためと称すればあらゆることが頑張れそうです。