「あ、佐久間だ」
「げ、」
教室を出るをちょうど隣の教室から出てきたに偶然出会ってしまった。
言わずもがな、俺はと相性が悪い。
別に、本人が嫌いなわけではない。
もし本当に嫌いだったら、このやり取りをする前に、俺はろくに返事も返さないだろう。
こいつはいつも全力で、良い意味でも悪い意味でも心の内を隠す事を知らない。
つまりは余計な言葉までストレートに出てしまっているので、それがもとでよく俺と口論になる。
どんなにオブラートに包んでいても、一般生から向かってくる視線は怯えたものが多い俺たち。
そんな中で、まっすぐ顔を突き合わせても揺るがない、強く温かい友愛の視線を向けてくるのは、いつだってだ。
それは、俺たちにとってありがたい事なのだと、そう理解はしている。
けど、それでも、何となくだがには苦手意識を持ってしまう。
鬼道さんとの練習で失敗すると怒るし、失敗しなくてもなんか突っかかって来るし・・・
・・・うん、今思えば結構理不尽だ。
これで嫌いにならない俺、心が広いかもしれない。
とにかく、とはまだあまりいい思い出はないため、こうして廊下で出会ってしまったりした時には、
挨拶より先に眉間にしわが寄ってしまうのだ。
「おやおや随分と嫌われたなあ、私も」
「日頃の行いが悪いからだろ」
「へー、そんな風に思ってたんだ」
じとり、と見てくるに言いすぎたか、と思ったが、
普段こいつがしてくる事に比べれば全然可愛いものだ。
別にひるんだりなんてしてないからな!
「だったらなんだよ」
「別に、ただ、その眼帯の内側にワサビを塗りたくってやろうか、とかは思ってないけど」
負けじと言い返すと、恐ろしい出来事が跳ね返ってきましたよ。
真顔なのが恐ろしいです、さん。
「絶対やるなよ!鬼道さんに言いつけるぞ!」
「ちょ、鬼道さんを盾に取るとかお前どんだけなんだよ!」
「お前にだけは言われたくないからな、」
「まあいいや、鬼道さんに欠員出すなって言われてるし」
ありがとう鬼道さん、おかげでワサビは回避できそうです。
というか、本当、は鬼道さんとの約束だけはちゃんと守るよな。
その十分の一でもいいから俺にも気を使ってくれないものだろうか。
眼帯を取られまいと押さえていた手をそっと外す。
すると思いだしたかのように、が、ああ、と口を開ける。
「今、みんなにお土産配ってるんだ」
「は、土産?」
「うん、土日にちょっと遠出したから」
よくよく見ると大きな紙袋を提げている。
きっと友達全員分買ってきたからそのサイズなのだろう。
半ば引っ張り出すようにして取りだされたそれを、は俺の胸に押付けるように渡す。
「じゃあこれ佐久間の分ね」
「うお、ってデカッ!何だこのデカさ!」
「見た瞬間佐久間を思い出したから、買わずにはいれなかったよ。
じゃ、ちゃんと持って帰りなよ」
いったいどこに収まっていたのか、佐久間の両腕にすっぽり納まるサイズのそれは、
大きさの割りにそれほど重くない。
・・・明らかに、紙袋に収まりそうにないサイズなのだが、まあ、だし、と言う理由で納得する。
もふっとした感触に疑問を抱きながら、立ち去るの背中を見送った。
あっけに取られながらも、包装してある袋をあけると中から出てきたのは、
愛らしい巨大なペンギンのぬいぐるみだった。
「ぺ、ペンちゃん・・・!」
佐久間次郎、出会ってからはじめてに確かな好感を持った瞬間であった。
***
100626
二人で鬼道さんを取り合っていればいい。