「源田、源田」
嬉しそうに走り寄ってくるの後ろで疲れ切った佐久間が茫然と立っていた。
・・・正直あまり良い予感はしない。
しかしながら名指しされてしまっているため立ち去る事も出来ず、俺は走り寄ってくるに視線を向けた。
「どうしたんだ、走ると転ぶぞ?」
「転ばないよ! っていうか佐久間から聞いたんだけど、よくらーめん食べに行くの?」
佐久間の様子を見て、どんな言葉が飛び出すのかと思ったら、別に普通の話題だ。
らーめん、って行った時の発音が少し気になりはしたが、好奇心いっぱいの目を見たらどうでもよくなった。
「ああ、部活帰りに割と行くな」
「・・・私も、らーめん食べたい!」
別に俺に言わなくても、鬼道に言えばすぐに連れて行ってくれそうなもんだがな。
鬼道はなんだかんだ言ってには甘い。
部活帰りに調理部で待っているをわざわざ迎えに行くくらい甘い。
最初のうちはそれに佐久間がものすごく不機嫌になっていたが、今では慣れたのか、特にどうという事もない。
いろんな事に苦笑しながら俺はに問いかける。
「・・・そんなにラーメン好きなのか?」
「わかんない!」
「・・・は?」
こんなに自信満々に言いきるくせに、分からないという返事が結びつかない。
どうした、それはもちろん大好き!って言うのと同じくらいのテンションの声音だったぞ。
少し心配になりもう一度きき返すと、きょとんとした顔ではこう告げた。
「食べた事ないから、わかんない」
「ちょっと待て、それ本気か?」
本気で心配になり、額に手を当てて熱を測ってみるが、は別に熱があるわけではないようだ。
失礼だな! っとが手を払いのけるが、その後ろに立っている佐久間と目が合った時に
ああ、そう言うことか、と目眩がしそうだった。
と言うか佐久間逃げるな、俺を置いて行くな。
この状況をどうやって脱出したらいいんだ。
「え、らーめんってそんなにメジャーなの?」
「メジャーって言うか・・・どうやったらラーメンを避けてここまで生きてこれるのか分からないレベルだ」
「え、そんなに?」
「ああ、本当に食べた事ないのか?」
「・・・テレビで見た事はあるよ」
「・・・そうか」
「・・・うん」
少し考えたは顎に手を当て、考えるようなそぶりを見せたが、結果は変わらなかった。
本当に今までどういう食生活を送ってくればこんな事になるのだろうか。
一人暮らしとか言ってたけど、一人暮らしならなおさらインスタントとか食べるんじゃないだろうか。
というか、本当にちゃんとご飯食べてるのかこいつは。
・・・やけに細いのは、もしかして食べ物を買うお金がないからやつれているとかそういうことなのだろうか。
実は体育に出ないのは、そのせいで軽い運動に耐えられるだけの体力が備わっていないからだろうか。
なんということだ、知り合ってもう一年以上たつのに今更そんな事にすら気付かないなんて、
俺友達として失格じゃないだろうか。
「・・・まぁ、食べに行くか、ラーメン」
「! うん!」
「心配しなくても、ちゃんと奢るからな」
「え、まじで! 源田ありがとー!」
ラーメンひとつで、ここまで喜ぶ女子を、俺は今まで見た事がなかった。
その日を境に、ちょくちょくに食べ物の差し入れをする源田の姿が目撃されるようになった。
今ここに、壮大な勘違いが生まれた。
源田は天然なイメージがあるので、ものすごいアホな勘違いをしてくれてたらいいと思います。