「あ、雨」
しまった今日は傘がない。
天気予報は見てきたのだが、朝は天気がよかったので軽く無視して家を出た。
確か占いの順位は12位中7位。
引き合いに出してはみたが微妙である。
ちなみにラッキーアイテムはジンギスカン。
そんな突然ジンギスカンとか言うハードルの高い物を朝から要求されても用意できるかっつーの。
しかもあったとしてもそんなもの朝から食べるものじゃないよ。
気持ち的に夕飯だよ、一日終わるじゃん。
降りしきる雨の中、折りたたみくらい買っとこうと心に決めたものの、とりあえずは今どうするかである。
それほど遠くはないものの、家に着くくらいにはきっとびしょぬれだ。
なんせ通学路には雨を避けられるような場所はほとんどない。
でもこの際私がぬれてしまうのは仕方ないとして、一番の問題は鬼道さんから参考書借りちゃってる事だ。
早く返さないといけないから今日はぜひ持って帰りたいんだけどぬらすわけにはいかない。
参考書だけでもぬれないようにビニールに入れておくか。
この前本屋に行った時にもらったビニール袋が確かそのまま入っていた気がする。
よし、あった。
たとえこれが見つかったとしても、私がぬれる事に変わりはないが。
ええい、もういい加減諦めて走って帰るか。
ああしまった私走れないんだった。
サッカーできない事以外にこんな弊害があるとは雨の日恐るべし!
「・・・?」
「おお、鬼道さんじゃないですか。どうされましたか」
下駄箱の前でウロウロしていると鬼道さんに見つかってしまった。
やばい完全に怪しい人じゃないか今の私。
「この雨で部活が中止になってな、帰る所だ」
「それは奇遇ですね。私も帰るところです」
「・・・何故参考書をビニールに?」
「せっかく鬼道さんから借りたので、濡れてはいけないと思いまして」
「普通自分が濡れないように考えないか」
「でも鬼道さんからの参考書ですし、濡れたらふにゃふにゃでページがくっついてめくりにくくなるじゃないですか」
呆れたように鬼道さんは言うが、どうしたって私はぬれてしまうし。(ビニールはそんなに大きくない)
傘がない時点でどうせ私は負け組ですよ!
ああ、違うんです鬼道さんに反抗しているわけではなくてですね!
そう、すべては雨のせいです!
「確かにそうだが・・・」
「ですから参考書だけでも隔離です」
「傘がないのか」
「ええ、天気予報に逆らってしまいましたので」
ズバリ言われてしまったので、とりあえず笑顔を浮かべておく事にした。
ああ、こういう時に雷門だったら迎えが来てくれるのにな、とか思ってない。
そう言うのを抜きで見てもらうために今も正体を隠しているのだから、そんなこと考えてなんかいない。
後ろめたいというのは、ほんのちょっとあるけどね。
何を思ったのか、考えるそぶりを見せていた鬼道さんはスタスタと私の前を通り過ぎ、
青色の傘を傘立てから抜き出し、パッと開いて私の方を振り返った。
「・・・一緒に入っていくか?」
振り向きざまの鬼道さんがかっこよかったとか、
ゴーグルをしていて目元は見えないのだけれど、鬼道さんの声があまりにも優しく聞こえたとか、
そんな鬼道さんに雨の音も聞こえないほど見入ってしまったとか、
お、おおおお落ち着け私!
鬼道さんだもん!
そんな置いて帰るような非道な人じゃないって知ってるじゃない!
ここで会ったのがたとえ源田とか成神だったとしても、傘くらい入れてくれるよ私の人徳で!(大きく出た!)
「な、何のフラグですか!」
「・・・フラグ?」
「うわっ、え、ああ、いえなんでもないです。お言葉に甘えさせてもらいます・・・!」
でもこの幸せはとりあえず噛みしめてもいいですか、鬼道さん。
家の前まで送ってもらってしまった私は鬼道さんにお礼を言った。
今日は部活はないと言っていた鬼道さん。
だから普段よりも早く下校したため、時間に余裕があるからという理由と、
送ってもらったお礼に家に上がってもらい、お茶を出した。
肩口が少し濡れてしまっていたので、私のジャージを貸し出した。
フリーサイズで買っといてよかった。
「そういえば鬼道さん」
「なんだ、」
「帝国のグランド、屋根付いてるのに何で雨が降ったくらいで中止になるんですか?」
それに筋トレくらい、あるんじゃないですか?
続けて問うと鬼道さんは沈黙を守ったまま、ソファから立ち上がり、私の前に立った。
「・・・」
「わ、わわわっ。こめかみ押さないで下さい、痛いです!」
「(それくらいは察しろ、馬鹿)」
ついでに言うと、本来鬼道さんは車移動だという事を思い出したのは
それから一週間くらいたってからの事だった。
そろそろ梅雨ですね。
導入編に見切りをつけました。
今まで以上に他愛のない話が増えて行きます。