お昼休み、購買から帰ってきた佐久間さんの手に握られているものに、さんは興味津々のようです。



「・・・・」



「なんだよ、



彼女はいつも通り鬼道さんと待ち合わせた屋上へ向かう途中なのか、

お弁当箱が入っている手提げを持って教室を出てくるところだった。

鬼道さんと同時に出てこなかったのは、今日はが日直で、その作業に追われていたからだろう。

そうでなければ彼女が休み時間に鬼道さんから離れる理由が見つからない。

鬼道さんが断らない限り、はそれこそ金魚のフンみたいにどこへでも引っ付いている。

・・・・ま、流石にサッカー部じゃないからグランドまでは来れないけどな。

別には猫かぶりなわけでもなければケバケバしい女子とも違い、

むしろ出会いがしらに拳で語り合うようなワイルドな面を持ち合わせているため、

改めてなくてもその行動は分かりやすく、比較的他の女子よりはうざくない。

ただ、お互い遠慮がないため、未だにちょっとしたことで喧嘩をしてしまうが、

最初に感じていたイライラは次第になくなって、今では普通に話せるようになっていた。

そんなと俺だが、どうやら俺はまだまだの事をなんにも分かっていないようだった。









「いや、・・・それ、なに?」



が指をさしたのは、俺がたった今購買から買ってきたばかりのパンのうちの一つ。

俺はいつも学食か購買で済ませてしまうが、そう言えばが学食や購買に買いに行っている姿を見かけたことはない。

いつでもちゃんと自分で作っているのか、お弁当袋を引っ提げて鬼道さんと屋上へ行ってしまうのだ。



「は? 何って、ただの焼きそばパンだろ」



「・・・やきそばぱん」



佐久間の手の中にある長細いパンはラップに包まれている。

実に窮屈そうである。

パンに茶色い麺類が挟まれているそれはとても胃に溜まりそうだ。

総じて茶色い。

しかも炭水化物×炭水化物な上に主食×主食。

言ってみればご飯の上にご飯が乗っているようなもので、結果的にそれはただのご飯の大盛りじゃないだろうか。

満腹だね、佐久間。

しかし栄養的にはどうなんだろうか、なぜそれを合体させたのだろうか。



「え、何お前知らないのか」



「んん、やきそば?焼き、そば?」



「なんで焼きそばに疑問詞が付くんだよ!」



「あ、でも聞いた事はあるよ?」



「当たり前だ馬鹿!」



「馬鹿って言った方が馬鹿」



「今日は完全にお前の方が馬鹿だろ!」



信じられないという感じに佐久間が後ろに後ずさる。

失礼な、別に知らなくたって死にはしないだろう。



「落ち着きなよ血圧あがるよ、・・・じゃあその赤いの何」



「紅ショウガだ、見りゃわかるだろ!?」



「べにしょうが」



「何なんだよその発音・・・!」



「あ、生姜! ジンジャー! あれ、でも紅ってなんで紅? 赤いから? なんで赤いの?」



まるで物心ついたばかりの幼子のような質問を繰り返すに俺は限界を超えた。

ポケットからスッと携帯を出して、迷うことなく通話ボタンを押す。



「・・・もしもし鬼道さんですか、ちょっとがいつも以上に斜め上で俺の手に負えません」



「あ、コラ佐久間! なに鬼道さんに密告してるの!」



「密告じゃなくてただの報告だ!」



話し相手が鬼道さんだと分かるとは慌ててキャイキャイ吠えて俺の腕を引っ張る。

何とかを片手で押えて鬼道さんに話の内容を伝えると、素早く指示が返ってくる。

流石鬼道さん、の扱いに関して右に出るものが居ないだけの事はある。

電話を切って、まだ俺の腕を引っ張っているに焼きそばパンを押しつけた。



「百聞は一見に如かずっていうだろ!とにかくそれやるから食って納得しろ!」



「うぇ? え、じゃあ佐久間何食べるの?」



「良いから鬼道さんの所に行け!待たせるなよ!」



「言われなくても!」



そう言われてハッとしたのか、は踵を返して屋上へと走り去った。

あーあ、俺の焼きそばパン・・・まあ、まだ他にも買ってるからいいか。

また今度には何かおごってもらう事にしよう。そうしよう。

それにしても・・・世間知らずってレベルじゃないだろ・・・!

妙に脱力した昼休み、佐久間は疲れた時には甘いものだな、と思い付き、

ちょうど購買から戻ってきた源田にアンパンをたかりに行くのだった。





その頃、屋上の鬼道さんとさん。

鬼道さんはさんに作って来てもらったお弁当を広げて、

なおかつ佐久間さんからもらった焼きそばパンを二人で半分こにしていました。



「・・・、焼きそばパンはおいしいか?」



「はい、なんか斬新でおいしいです!」



斬新も何も、購買に行けば毎日買える定番の品なのだが、が目をキラキラさせているので俺はその言葉を飲み込んだ。

この調子なら、を連れて購買に行ったら、さぞや珍妙な言葉が飛び出すことだろう。

揚げパンとか、なぜパンを揚げるのか聞かれそうだ。

しかし昼の購買は人の密集具合が半端ない。

律儀に答えている時間はないだろうから、時間をずらした方がいいかもしれないな。



「・・・よかったな」



「はい!」



・・・今度、商店街のB級グルメツアーでもやってみたら喜ぶだろうか?

それを世間一般的にデートと呼ぶかどうかは、俺は知らない。

いつも通り、二人の昼休みはのんびりと過ぎて行きました。


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100523


夏美さんって焼きそばパンとか知らなさそうですよね。

それに便乗して庶民の食べ物をあまり知らないという設定にしてみました。