走り去った佐久間を咄嗟に追いかけようとしたら、鬼道に手を掴まれて止められた。

なぜかと聞けば、少し考える時間が必要だろう、とのことだった。

放っておいて大丈夫だろうかと思うが、俺だって佐久間と短い付き合いじゃない。

冷静に考えて、俺も一人にしておいた方がいいだろう、そう結論に至った。

鬼道に向き直ると、さっき右ストレートをかました女子と目が合った。

すでに先ほどの剣幕はなく、まるで別人のようにおとなしく鬼道の後ろにちょこんと立っている。



「ちょっとカッとなっちゃって、ごめんね、どこも痛くない?」



「え、ああ、ちょっと驚いたが、怪我はないぞ」



「そっか、よかった」



胸をなでおろすその仕草から、やはり先ほど右ストレートが飛び出してきた女子とは雰囲気が結びつかない。

ぺちっと鬼道におでこを叩かれているが、気分を害している感じではなく、

すみませんでした、と素直に先ほどの素行を謝罪している。



「源田はまだ面識がなかったな」



「ああ、俺は源田幸次郎。鬼道と同じサッカー部だ。よろしくな」



「私は。鬼道さんのクラスメートで調理部。よろしくね」



「で、さっき走ってったのが佐久間次郎。あいつもサッカー部なんだが、

悪いな、いきなりつっかかったりして。根はいいやつなんだ」



「まあ気持ちは分からないでもないから、気にしてないよ。

でもまた突っかかって来るなら容赦しないから」



笑顔でにっこりと言うあたり、やっぱり先ほどの素行は幻じゃなかったようだ。

それを鬼道がたしなめるとしぶしぶながらも引き下がった。

鬼道には随分と素直らしい。

・・・なんだか佐久間に似ている気がするが、ここで言ったら荒れそうなので口をつぐんだ。



それからしばらく立ち話をしていたら、昼休みが終わる予鈴が鳴った。

そう言えば、次は移動だが、佐久間は戻ってきているだろうか。

あの様子だったら、サボりかもしれないな。



「じゃあそろそろ教室に戻るか」



「そうですね」



「ああ、鬼道、、またな」



そう言って別れれば、鬼道の隣にが並んで教室へと帰って行く。

思えば鬼道の周りに女子が並んでいる光景は珍しい。(佐久間が払いのけていたため)

佐久間の剣幕を見て、俺たちがサッカー部で、そしてその試合を見て近づいてくる女子は本当に数少ない。

は俺たちの試合をまだ見ていないのかもしれない。

それでも俺には、試合を見た後でも、は去って行くような弱い女子ではないのだろうと想像できた。

だからきっと、鬼道も傍に置いているのだろう。

鬼道は良くも悪くも、内側に入ってきた奴には優しい。

だが、内側に入る前、優しさ上に傷付けてしまう前に人を態と寄せ付けないところもある。

それを超えてきたのなら、十分信頼できる人物だと、俺は思う。

今日直接対面して、よく分かった。


それになんだか、



「面白いやつだったなあ」



自然と浮かんだ笑顔に、ちょうど屋上から戻ってきた佐久間と遭遇して、気持ち悪いと一刀両断されるが、

別に気にならなかった。

佐久間、類は友を呼ぶって言葉知ってるか、そう言えば、今度は佐久間から俺に

右ストレートが飛んできた。

流石に痛いが、図星らしく佐久間は肩を震わせ、顔を真っ赤にしているから全然怖くない。

別に今までがつまらなかったわけではないが、これからもっと楽しくなりそうだと、

俺はもう一度笑顔を浮かべた。




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100516