最近鬼道さんの近くに、変な女がちょろちょろしている。
名前は確か。
髪は短くショート、身長も体格も平均的、ちょっと頭の足りなさそうな顔をしている。
そんな女が最近よく鬼道さんと一緒に居る所を見かけるようになった。
しかも鬼道さんは、何かとそんな変な女の世話を焼いているらしかった。
鬼道さんとはクラスが離れてしまったため、どうしてそうなってしまったのか経緯は分からない。
しかし犬みたいについて回るその女を見ていると、妙にイライラした。
「佐久間、眉間にしわが寄ってるぞ」
「うるせぇ、源田のくせに生意気だな」
「おい、佐久間」
ズカズカズカと効果音が付きそうな音を出しながら、鬼道さんと楽しく話していたであろう女に近づく。
ズイッと鬼道さんの前に立ちはだかると、きょとんとする鬼道さんと女。
後から追いかけてきた源田が何か言ってるが、俺は真っすぐ女・・・を睨みつけた。
「お前、鬼道さんに纏わりつきすぎ、迷惑って言葉、知らねえの?」
「ちょ、佐久間!」
源田が俺の肩をつかむが軽く払いのける。
どういう理由で近づいてきているのかは知らないが、俺たちはサッカー部だ。
誰が相手だろうと絶対に勝たなければならない。
不安要素や邪魔なものがあるのなら、早いうちに潰しておくのが先決。
ちょっときつく言えば女なんてものはビビッて逃げてく。
そしてその程度の者ならば、最初っから俺たちには必要ない。
鬼道さんが何か言いたげに口を開こうとした時、それより早く女が動いた。
気が付いた時には右ストレートが俺の頬に吸い込まれていた。
しかもグーである。
一瞬何が起こったか分からなくて、すぐ後ろに居た源田を巻き込んで俺は廊下に尻もちをついた。
茫然としていると、その女は仁王立ちで俺と鬼道さんの間に立っていた。
しかも、ものすごく睨んでくる顔が怖い。
ちょ、待てよさっきまでのアホ面どこにいった。
「あんたこそ、そう言ってなんでも突っかかってきて事を荒立てて、
それこそ鬼道さんの迷惑だと思わないの。馬鹿じゃないの」
声に抑揚がない分更に怖い。
「、それくらいにしとけ。佐久間も、そう何でもかんでも突っかかるのは悪い癖だ」
「・・・鬼道さんがそう言うなら、別にどうでもいいです」
そう言って、は鬼道さんの後ろに下がった。
別に、どうでもいい。
そう言われた事に少なからずショックを受けるが(しかも殴っておいて)
目の前に差し出された鬼道さんの手を素直に受け取り、立ち上がる。
すみません、そう一言言って俺はその場を走って後にする。
今度は源田は追ってこなかった。
たぶん、鬼道さんが引きとめたからだろう。
廊下を走って階段を駆け上がって屋上に出て、フェンスに背を預けて座り込んだ。
このくらいの距離を走ったくらいで息は今更上がらないが、
深く深呼吸をした。
憎らしいくらい青い空は妙に日差しが強くて妙に身体が熱い。
何なんだあの女。
どこにでもいそうな平々凡々な女子。
鬼道さんの周りをちょろちょろしていて、頭が花畑見たいにあほ面で笑う女。
かと思いきや、今日初めて対面してみれば右ストレートが飛んできて、
しかもものすごい形相で睨まれた。
そしてその姿が、鬼道さんに変な虫が付かないよう、立ち塞がってきた俺自身によく似ていた。
いや、違う俺はあんなんじゃない。
あんな女、なんかと俺は全然違う!
でも、きっと、あいつは他の女と違って、怒鳴れば散るようなひ弱な女じゃない。
そしてたぶん、鬼道さんの傍に居る事を、望んでいるんだろう、俺みたいに。
俺とあいつは全然違うけど、何一つ違うけど、でも、そう思った。
それでもの姿がいつの日かの自分に重なって見える。
なにか、横取りされたようで俺はイラついていた。
それを人は同族嫌悪と呼ぶ事を、俺は知らない。
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100516