放課後、約束通り私は鬼道さんと一緒に商店街を歩く。
マンションから比較的近いその場所は、覚えていて損はない。
スーパーからドラッグストアまで、日常的に必要な場所をかいつまんで案内してくれる鬼道さん。
こんなに誰かと外をうろうろすることがないから、なんだかすべてが新鮮。
夏美と一緒の時間ももちろん楽しいけど、
新しい世界が開けて行くこの感じは何物にも代えがたい。
いろんなものを目を輝かせてみていると鬼道さんは不思議そうにこっちを見てくる。
「そんなに珍しいか?」
「はい、とっても! あ、鬼道さん本屋さん寄ってもいいですか?」
「ああ、構わないが」
そう了承を得て、本屋へ入る。
鬼道さんはいい人だ。
それは痛いほどに分かっているのだが、やはりサッカー部に関わりたくない私は調理部に入ろうと思う。
最後の悪あがきだ。
後お金に困っているわけではないが、1人暮らしをする今、
料理がさっぱりできない私は部活で料理が学べるのが素直にありがたかった。
調理部万歳。
だから、今まではそう縁はなかったが、一冊くらい料理の本が欲しい。
できるだけ簡単な、初めての料理、くらいの低レベルな本が欲しい。
難しい事が書かれていても、今の私には作れそうにないし。
「料理の本か?」
「はい、一人暮らし初めてなんですけど、料理ってあまりした事がなくて」
「そうか、じゃあ簡単なやつが良いな」
そう言って、どうやら一緒に探してくれるらしく、鬼道さんも料理の本を手に取った。
余談だが、料理のできる男子ってかっこよく見えると私は思っている。
自分ができないからなおさらね。
「鬼道さんは料理するんですか?」
「いや、俺もまともにした事はないな。おにぎり程度だ」
「そうですか(やべぇ、私おにぎりも握った事ないんですけど)」
何冊か手にした時、鬼道さんが私の前に一冊本を差し出した。
その本は鬼道さんが手にするにはちょっとかわいらしい雰囲気の料理の本で、
基本、とか、はじめて、とか、とにかく簡単そうな内容のものだった。
「最初はこのくらいがいいんじゃないか?」
「確かにそうですね、あ、おにぎりから載ってますよ」
正確にいえば、おにぎりの中身の具財の作り方だが、おにぎりの握り方も端の方に書いてある。
そうだな、おにぎりくらいは握れるようにならないとスタート出来ないし、
鬼道さんが勧めてくれたからこの本にしようかな、その方がやる気出るし。
「ああ、これなら俺も作れるかもしれないな」
「マジですか」
「これくらいなら、練習すればもすぐにできるようになると思う」
「ええ、じゃあ頑張ってマスターしますね!」
さっそくその本を手にレジへ向かう。
帰ったら早速おにぎり特訓だ。
おにぎりに特訓とかレベル低いとか言わない。
中一だもの、ちょっと前まで小六だもの。
とりあえずうまくできるようになったら、鬼道さんに差し入れしよう。
入学初日の夕焼けは、隣に居てくれる人のおかげで随分と綺麗で、優しい光を放っていた。
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100516