、どうしてもいくの」



「うん、もう決めたから」



「・・・あなただけに、辛い思いをさせるなんて・・・」



「大げさだよ、それにそんなに離れてるわけじゃないでしょ?いつでもすぐに会えるよ」



「・・・そうね、時間が空いたらできるだけ会いに行くわ」



「私も会いに行くよ。だって夏美の事、大好きだからね」



「・・・ありがとう、



私は双子の姉、雷門夏美と別れ、車に乗り込んだ。

心配そうに見送りをする夏美は手に持ったハンカチをぎゅっと握りしめたままこちらを見ている。

それに笑いかけ、小さく手を振る。

今後一生の別れでもないのに、大げさだな、と思うけど、そう言う私もズボンのすそを固く握りしめていた。

どっちもどっちだ。



窓の外の流れていく景色を見つめ、過ぎていく稲妻町の見なれた景色を目に焼けつけた。

毎日変わり映えのない景色だと思っていたが、いざ離れるとなると妙に名残惜しい。

可笑しいな、本当にすぐ帰ってこれる距離なのに、まるで異国に行くかのようだ。



中学に上がることになった私はある決断に迫られていた。



私はもともとサッカーが大好きで、チームに所属して毎日ボールを追っていた。

夏美はサッカーはしなかったけど、試合の日は応援に来てくれたし、

私がボールをカットしたりすると自分の事のように喜んでくれた。

それがとてもうれしくて、私はますますサッカーに打ち込んでいった。



しかし、年齢が上がるとともに、私の周りでサッカーをしている女子というものがほとんどいなくなった。

男子に混ざりながらサッカーをするのも、最初は気にならなかったけど、

いわゆる思春期というものが近づき始めてどこかよそよそしくなった。

サッカーはもちろん大好きだ。

けど、夏美を見ていると、私も家のためになにかしなければならないと思うようになったし、

ちょうど小学校を卒業する年。

止めるにはちょうどいい時期かな、そう思っていた。

最後の試合を自分の持てる力すべてで全力でやり終えたならば、

きっと悔いなんて残らないだろうと、きっと気持ちが切り替えられるだろうと思っていた。



だけど、全力を出すどころか、私はその日事故に遭い、試合会場にすら行けなかった。



どうやら車と追突したらしく、気が付いたら病院のベットの上で、すぐ隣で夏美がわんわん泣いていた。

それを見て、私もとても悲しくなって泣いてしまった。

足の損傷が激しく、歩くこともままならない私に医者は二度とサッカーはできないと思ってください、そう言った。

それを聞いた時、すっぱりやめるつもりでいたサッカーが、どうしようもなく恋しくなった。

最初は夏美やお父様が喜んでくれるから、それがうれしかったからサッカーが好きだった。

でも、いつしかそれだけではなくて、サッカー自体が大好きなのだと、私はその時ようやく気が付いた。



「お嬢様、到着いたしました」



「うん、わかった」



だから私は決断したのだ。

そのために、夏美の元を一時的に離れる事になったとしても、

もう一度、サッカーをするために、この怪我と戦っていくのだと。

治療の設備が整ったこの場所で、新しい生活を始めるのだと。



「(ああ、もっと思いっきりサッカーしてればよかったなぁ)」



こういうのを、人はない物ねだりって言うんだろうなあ。






明日から家に帰っても夏美は居ない。

私は一人暮らしを始めるのだから当たり前だ。

でももう一度サッカーをするためだから、仕方がないのだ。

私は、絶対諦めない。






それから一年経った。





ゆっくりとしたペースだが経過は良好。

医者の判断で、もうしばらくしたら、完全復活らしい。

既に軽くならボールを蹴っても言いといわれているし。

もし、完全回復したのなら、



「あ、」




「ん、どうした




「なんでもないです、鬼道さん」




私はこの人と、サッカーがしたい。





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100516


MEMOに載せていた鬼道さんと私シリーズ。
もっと掘り下げて連載にしてみました。